緊急事態宣言も延長が決定し、各自治体や学校などが、夏休み延長や分散登校、オンライン授業への切り替えを発表し始めてる中、私立横浜創英中学校・高等学校(神奈川県横浜市)も、8月20日に、2学期当初の授業形態を「オンライン授業」にする(高3のみ対面)と発表しました。
2学期当初、「オンライン授業」に。(高3のみ対面授業)
8月20日に、2学期からの授業形態について発表。
決定の内容は以下の通りです。
- 中学1年生から高校2年生は、自宅からの「オンライン授業」に。(環境が整っていない生徒は、登校してオンライン授業受講可能)
- 高校3年生は、指定校推薦の学内選考や共通テストの出願準備などで対面授業を希望する生徒が多くいるため、「原則として対面の短縮授業」。ただし、登校に不安を感じる場合は個別対応で、その場合は期間限定(9/1〜10)で「出席扱い」に。
- 大会やコンクールを控えている部活動の生徒(それ以外は原則活動禁止)は、時間限定で活動可能とし、部員は登校してオンライン授業を受講可能に。
8月初旬には、2学期からの「オンライン授業」検討開始。
横浜創英は、8月初旬に「9月1日からオンライン授業を実施することも視野に入れた検討を始めました」と、すでにオンライン授業の検討を始めてることを保護者に通知していました(以下参照)。検討後の判断は、8月20日に連絡をするとなっていましたが、その通り、20日に9月からの授業形態が発表された形となりました。
緊急事態宣言の期限は今月 31 日までになっていますが、今後も感染者数が拡大することを予想し て、9月1日からオンライン授業を実施することも視野に入れた検討を始めました。教職員も生徒の 健康を守ることとあわせて、教育活動を前に進めていくために、オンラインによる授業作りに励んで いるところです。 つきましては、オンライン授業への移行の可能性にともない、ご家庭でのインターネット接続環境 が整っていない場合は、学年や担任にご相談ください。ご家庭と一緒に課題を解決していきたいと考 えています。 9月からの授業形態については、緊急事態宣言の継続や新規感染者数の推移などをみながら判断を し、8月 20 日(金)にツムギノを通じて各ご家庭に連絡をさせていただきます。(出典:横浜創英中学・高等学校)
昨年の春の一斉休校時も、ICTの環境が整っていない状況からたった2週間でオンライン授業を実施したことで、横浜創英中学校・高等学校は話題になっていましたね。
この学校、ご存知の方は多いかと思いますが、宿題や定期テスト、学級担任制など学校の「当たり前」を次々と廃止した元千代田区立麹町中学校の校長として有名な工藤勇一氏が、2020年4月に新しく校長として就任した学校なのです。
昨年の一斉休校時も早い段階で、オンライン授業体制に。
一斉休校時は、Wi-Fiも整っていないICT環境。
工藤勇一氏が横浜創英の校長に就任した春は「一斉休校」時。当時、Wi-Fiも飛んでいないようなICTを苦手としていた学校だったそうですが、それでもオンライン授業の必要性を感じ、あらゆる手を尽くし準備し、結果、わずか2週間で見事オンライン授業の配信を実現しています。
実はうちの学校は情報通信技術(ICT)が苦手でした。新校舎も建築中だったのでWi-Fiも飛んでいないという環境でした。(出典:news.1242.com)
工藤氏は「横浜創英は、会議や連絡調整のすべてを紙ベースで行っている古いタイプの学校だった」と振り返る。そんなITが苦手な学校が、いかにITに取り組むのか。(出典:toyokeizai.net)
オンラインを実現するために特別チームをつくり、ZoomやYouTubeの限定動画配信など、無料でできるすべてのものを洗い出しました。4月8日には全教員が集まり、パソコンを持っていない人やスマホを持っていない教員は買いに行き、その端末を持ち寄り、Zoomをつなぐことから始めました。その1週間後には各家庭に教員が戻り、そこから授業の配信ができるようにしました。その間、わずか2週間くらいでした。(出典:news.1242.com)
「あらゆる手を尽くして、可能なことをやりました」
まずは、工藤校長が横浜創英に就任したその日に、早速80人弱の先生たちを集めてブレスト。起こり得る課題を書き出す作業をして、その中で「オンラインしかない」ということになったそうです。なんという早さ…。
手を尽くして、可能なことをやりました。4月1日、私が横浜創英に就任したその日に教員を集めてもらいました。総勢120人ほどの教員がいますが、正規の職員を中心とした80人弱を集め、ブレインストーミングをして、これから起こり得ることについて課題を書き出す作業をしました。そこで「オンラインしかない」ということになりました。(出典:news.1242.com)
情報集め→「できるところから始めてみた」
ただ、当初は、教員に1人1台の端末も揃っておらず、ネットワーク環境も不十分。それでも、「オンライン授業しかない」という答えに、まずはひたすら情報集めをして、「できるところから始めた」そう。
「4月当初、学内で教員に1人1台情報端末がなく、通信ネットワークも不十分でした。ITに強い教員も限られる中で、何ができるのか。全員で課題を洗い出してたどり着いた答えは1つでした。やはりオンライン授業しかないと。そこからZoomなのか、Classiなのか、YouTubeなのか……オンライン授業を実施するための情報収集をして、できるところから始めてみたのです」(出典:toyokeizai.net)
「「できないと言わない」という意識を共有できたことが何より大きな一歩」
そして、「子供たちの生命を守る」という最優先事項があったからこそ、その目的達成のために「できないことは言わない」という共通意識を学校全体で持ち合わせていたことは、目標実現の大きな要素だったようです。
就任後、喫緊の課題は新型コロナウイルスの感染防止対策でしたが、「できないと言わない」という意識を共有できたことが何より大きな一歩になったと思います。子供たちの生命を守ることを最優先しながら、より良い学習環境を整えるため、非常にスピーディーに動けていると思います。(出典:yomiuri.co.jp)
授業は基本的に遅れもない、むしろ進んだ教科も。
また、オンライン授業では「授業の進度が遅れるでは?」なんて声もよく聞かれますが、横浜創英では、オンライン授業でむしろ進んだ教科もあったりと、基本的に授業の遅れはでなかったそうです。
教科によって違いますけれども、基本的に遅れはほとんどありませんでした。むしろ進んだ教科もあったと思います。(出典:news.1242.com)
情報をオープンにさらけ出すことで「保護者や生徒たちを巻き込んで取り組んだ」。
横浜創英は、オンライン授業実現に向けて学校側が必死に準備している間、取り組んでいる様子や困っていることなどもオープンに保護者向けに動画配信したり、その他にも、メール相談や電話相談の窓口を作り、保護者の意見や情報を細かく集めて、それをいかに学校が支援できるかということにも注力していたようです。
その結果、学校に一体感が生まれたことも大きな成果だったと、工藤校長はインタビュー記事で語られています。
生徒たちには、この状況を伝えるためにYouTube動画で学校の様子を配信しました。どうしても、子供たちや保護者は「学校は何をしてくれるのか」と待ちの姿勢になります。待ってしまうと、情報が来ないと不満になります。そこで学校が困っていることも含めさらけ出す、そんな動画配信を4月だけでも十数本つくりました。それからすべての学年にメール相談と電話相談の窓口を立て、各家庭1軒1軒から情報を集めて、それに対して我々がどのように支援できるかということをやりました。(出典:news.1242.com)
「およそ2週間で、4月中旬にはオンライン授業ができる体制が整いました。教員たちでアイデアを出し合い、保護者や生徒たちを巻き込んで取り組んだことが功を奏した。その結果、学校で一体感が生まれたことも大きな成果だったと思っています」(出典:toyokeizai.net)
5月には、「オンラインでの学校」をスタート。
5月には、新しいカリキュラムも組まれて、オンラインでの学校をスタート。生徒が自由に選んで参加できるアフタースクールという時間が作られていたり、オンライン部活説明会などを生徒が自分たちで企画したり、オンライン保護者会をやったりと、いつの間にか「みんなが学校を作る当事者」になっていったそうです。
4月中旬には、この自粛期間は長期化すると判断して、保護者には5月7日にオンラインで学校を再開しますとアナウンスし、急きょ、Google社のグループウェア「G Suite」への移行作業に着手しました。ご家庭での端末の設定などの相談に対応するため、相談窓口はゴールデンウィーク中も開設していました。(出典:yomiuri.co.jp)
“みんなが学校を作る当事者”に。
5月には新しいカリキュラムを組んで、オンラインでの学校をスタートしています。授業はもちろん、自由に選んで参加できるアフタースクールもあるんですよ。保護者会や三者面談もオンラインで行っていますし、生徒自身が部活の説明会や昼の放送をZoomで始めるなど、みんなが学校を作る当事者になっています。(出典:asahi.com)
工藤校長の考える、日本でICTが進まない理由。
昨年の一斉休校時に横浜創英で短期間にこれだけICT化が進んだというのに、あれから一年以上経った今になっても、日本でICTがなかなか進まないのは何故なのでしょうか。
工藤校長は、「東洋経済オンライン」の記事でも語られているように、「問題があれば改善すればいい」という姿勢を大切にされています。「問題があることを前提に」前に進むことを重要視しているので、昨年の一斉休校時でも今回のような状況でも、目の前の問題を改善すべく、挑戦し続けてこれたのだと思います。
また、そういうチャレンジングの姿勢をしっかりと生徒と保護者にもみせることで、周囲の理解を得て、結果的に“みんなが学校を作る当事者”になり、ICTを苦手とする学校の状況下でも「オンライン授業」を短期間で実現可能としたのでしょう。
そんな工藤校長が、日本でのICT化がなかなか進まない背景として指摘しているのが、「失敗しないように完全な施策のあり方を議論」して、そこで結局「実行されない」状態で「止まっている」という点です。
リアル(対面)かオンラインか?の議論の前に、教育における「最上位目標」は何かを考えることの必要性を、工藤校長はインタビューの中で語られています。
「いつまでも失敗しないように完全な施策のあり方を議論し、それが結局は実行されない。」
「日本ではリアルか、オンラインかというように、いつも二項対立で考えようとします。しかし、それは意味を成しません。もしオンラインがあれば多くの子どもたちを救うことができます。例えば、リアルな授業を受けられない病院の院内学級の子どもたちもオンラインならば、主体的な学びを受けることができるはずです。問題があれば改善すればいい。問題が発生するのを前提に前に進むべきなのです。そんな時代になっているのに、いつまでも失敗しないように完全な施策のあり方を議論し、それが結局は実行されない。日本は最上位目標に合意していない国です。もし最上位目標が合意されていれば、リアルか、オンラインかの議論はなくなるはずです。教育における最上位目標とは何なのか。そこを考えることが必要なのです」(出典:toyokeizai.net)
「子どもとその家族の命を守り、私たち自身とその家族の命を守り、かつ学びを止めない」
昨年休校時の横浜創英の最上位目標は、「子どもとその家族の命を守り、私たち自身とその家族の命を守り、かつ学びを止めない」。まずは最初にその目標がしっかりと学校全体で認識され、その目標達成のための「オンライン活用しかない」という結論に行きついたことで、そこから一気に実現へと学校全体で動くことができたのでしょう。
横浜創英はぜんぶで非常勤も入れると100名以上の職員がいるのですが4月上旬に正規職員70名程度の教員を集めてブレインストーミングを行いました。「今、何を最上位の目標とすべきか」答えは簡単です。「子どもとその家族の命を守り、私たち自身とその家族の命を守り、かつ学びを止めない」これを全員で一致しました。次にこれを実現するためにもっとも適切な手段は何か、やはりオンラインを中心としたICT(Information and Communication Technology)活用しかないという結論に達しました。 (出典:kyoiku-tosho.co.jp)
工藤校長の言うこの「最上位目標」がしっかりと考えられていて、そこがブレることがなければ、学校現場で「今」何をする必要があるのかも見えてくるはずです。
現在、2学期開始を目前に、何の動きも見せない学校、自治体、国の「最上位目標」は一体何なのしょう?…….。考えさせられてしまいます。
コロナ禍における横浜創英の「子どもとその家族の命を守り、私たち自身とその家族の命を守り、かつ学びを止めない」という最上位目標、素晴らしいと思います。
「命を守りつつ、学びも止めない」….この2つは、子どもの権利としても、守られるべき最上位です。この目標を、今こそ意識してもらいたいと、国、自治体、教育委員会、学校関係者(保護者含め)には強く、強く、願うばかりです。
オンライン授業(ICT活用)における工藤勇一校長の想い
最後に、ICT活用についての工藤校長の想いや考えなどを幾つかピックアップして、以下ご紹介します!
「自分で学ぶ「自律型」や学びたいものを学ぶ「効率型」の学習に切り替えるチャンス」
工藤校長はオンライン授業を、生徒が一斉に教員の話を聞く授業から、自分で学ぶ「自律型」や学びたいものを学ぶ「効率型」の学習に切り替えるチャンスだと考えている。(出典:sukusuku.tokyo-np.co.jp)
「ICTを使って今こそ、学校教育の学びのスタイルを変えるきっかけに」
「重要なことは、ICTを使うことが目的であってはならないということです。子どもたちが将来、どのような大人になっているのか。そこから逆算してICTをどう使うのかを考える。ICTを使って今こそ、学校教育の学びのスタイルを変えるきっかけにすべきなのです」(出典:toyokeizai.net)
「学ぶ側にカリキュラムや学び方を主体的に選ぶ権利があれば、学ぶ側は確実に能動的な姿勢に変わっていきます」
「知識を与え続けられるだけの学びは、子どもたちの主体性を奪ってしまいます。本来、世の中のスタイルは、何でも対話が基本で双方向であるはずです。ただ、今になって突然、子どもたちに対話を促してもうまくいきません。受け身の学びのスタイルに慣れてしまっているからです。教育先進国のフィンランドが行った教育改革のように、もし学ぶ側にカリキュラムや学び方を主体的に選ぶ権利があれば、学ぶ側は確実に能動的な姿勢に変わっていきます。そうすれば、自分から対話を始め、学び合う。そんな子どもたちに変えることができるのです」(出典:toyokeizai.net)
「学ぶスタイルは自由でいい」
一斉授業についていけないと落ちこぼれと扱われ、ついていけるような訓練が施される。もちろん、乗り越えられる人もいますが、そうでない人もいます。学ぶスタイルは自由でいいのです。大事なことは、それぞれの子どもたちが主体的に学べるように授業内容や教員の意識を変えることです」(出典:toyokeizai.net)
「ICT化をきっかけとして『誰一人置き去りにしない学校』づくりにつなげていきたい」
現在、GIGAスクール構想が全国で展開中ですが、ICT化をきっかけとして『誰一人置き去りにしない学校』づくりにつなげていきたいものです」 (出典:toyokeizai.net)